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Genome sequencing in microfabricated high-density picolitre reactors.

Margulies M, Egholm M , Altman WE , et al., Genome sequencing in microfabricated high-density picolitre reactors. Nature. 2005 Sep;437(7057):376-80.

概要

従来のクローニング後のSanger法によるシークエンス解析と異なり、エマルジョン中でのDNAフラグメントの増幅と極小サイズの反応ウェルを用いたpyro-sequencing法によって、DNAフラグメントのクローニング作業を無くし、また解析作業を高度に平行化させることで2500万塩基を4時間で解析することができた。解析結果の正確性は従来のSanger法と比較しても十分に高い信頼性を確保する事ができていた。

感想

DNAの塩基解析は今や分子生物学を扱う上で無くてはならない技術ですが、なかなか時間と労力がかかってしまいます。この論文の冒頭でも触れられていますが、例えばヒトのゲノムを解析する際には、ゲノムを適当なフラグメントに切り分け、各々を細菌やイースト、ファージなどにクローニングしたライブラリを作成して、各々のクローンをSanger法で読んでいく、という手法を用いていました。ライブラリの作成やクローン取り、Sanger法による解析は何れも非常に時間がかかり、また手技の取得にもなかなかの労力が必要でした。このため、すでに様々な細菌やウイルスのゲノム配列がデータベース化されており、ゲノム配列を読む事で病原体などを同定可能な状態であるにも関わらず、この様な方法は現実的な病原体分離法ではありませんでした。がんの分子診断も然りです。

しかし、この様なクローニングが必要なく、サンプルを直接解析できる上に、極めて平行化された解析によって解析速度を上げる方法があれば、もっと容易に菌種の同定が可能になるかもしれません。また、現在の様にがん細胞が特定の遺伝子に変異を持つか否かを一つずつ調べるのではなく、ゲノムごと解析する事でがん細胞の性質などをよりはっきりとつかむ事ができるかもしれません。

この論文をみても感じますが、現在の医学領域ではやりたい事、希望のもてる理論はあるものの、技術的な問題で実現不可能となっている事も多くあります。一つのDNAフラグメントを納める75plのウェルなど、どの様にして作ればよいのか、想像もつきません。しかし世の中には45nmの配線を組合わせてCPUを作る技術もあり、他にも私の知らない素晴らしい技術が沢山あるに違いありません。その様な技術と、医学・医療の領域からのニーズが出会う機会がもっとあれば、思いもよらない方法で難問を解決できるのかもしれません。