Header image  

 

杜の大学生の為のちょっとした情報サイト

 
 
    HOME

 

Nの一覧に戻る

語彙解説一覧に戻る


Norton & Simon hypothesis

ノートンとサイモンの仮説

Norton & Simonの仮説とは、Gomperzによる細胞動態に基づくがんの化学療法に関する理論です。

Gomperzによると、腫瘍の増殖率は腫瘍の細胞総数が小さい程大きな値を取ります。これは腫瘍径が小さい程分裂期にある細胞の割合が高い、もしくは倍加時間が短いという二つの考え方で説明できますが、多くの場合、前者がより貢献しているであろうと考えられています。

ここで、一般的な化学療法剤は静止期 (休止期とも)にある細胞よりも分裂期にある細胞により効果を及ぼします。Skipperのlog-kill theoryによると、化学療法剤を使用した際には一定数の細胞が死滅するのではなく、一定割合の細胞が死滅するとされています。従って、腫瘍径が小さい程薬剤による腫瘍の縮小率は高くなると考えられます。

従来は腫瘍をより効率的に死滅させるため、用いる化学療法剤の投与量をギリギリまで上げる事が試されました。確かに、化学療法剤をより多く用いればlog-killの場合の死滅率を上げる事ができます。この様な治療をdose-intenseな化学療法と呼びます。

しかし、ここで問題が生じます。化学療法剤は一般的に非常に毒性が強いため、抗菌剤のように持続的に投与することはできません。正常な細胞、特に血液系の細胞と腸管の粘膜上皮が回復するだけの時間を空けて投与しなければなりません。薬剤の投与量を増やせばこの期間をより長く取らなければならなくなります。

Gomperzによると腫瘍径が小さい程増殖は速いのですから、化学療法剤によって小さくなった腫瘍は以前にも増して活発に増殖することが考えられます。薬剤の投与量を増やし、細胞の死滅率を上げれば上げるだけ、腫瘍の再増大は活発になります。従って、ある程度投与間隔が開けば化学療法剤投与によって減少した細胞を補って余りある増殖を示してしまい、結局は何もしない場合と同じ様な増殖動態をたどってしまう事が考えられます。

これを防ぐにはどうすればよいでしょうか。問題は休薬期間中に腫瘍の再増大が生じて細胞数を回復してしまう事です。腫瘍の増殖自体を押さえる事は難しいですが、回復に十分な時間を与えない事は可能です。そのためには正常組織のダメージを少なくしなければならないため、dose-intenseな方針は使えません。一回の投与における腫瘍の縮小率よりも、再増大する暇を与えないように休薬期間を短くし、正常組織にはG-CSFなどで応援しながら治療を行う事で腫瘍の成長曲線を下に押し下げ、より緩やかなカーブにする事ができます。この様な治療をdose-denseな化学療法と呼びます。

近年までに多くのdose-intenseな治療法が試され、血液系の腫瘍を除いてはなかなか効果が上がってきませんでしたが、dose-denseな治療法では乳癌などで少しずつ効果があるとの報告が出てきており、この理論の裏付けとなりつつあります。