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Goldie & Coldman hypothesis

ゴルディとコールドマンの仮説

Goldie & Coldmanの仮説とは、1980年代にGoldieとColdmanによって提唱された腫瘍の薬剤耐性と細胞動態に関する理論です。

がんを薬剤で治療していくと、使用された化学療法剤に感受性のがんであれば、多くの場合、初めは腫瘍が縮小し、奏効を得ることができるのですが、ある時点から薬剤の効果がみられなくなり、腫瘍の再増大が始まります。これは薬剤に対する耐性を生じた腫瘍細胞の亜集団が薬剤による選択圧によって選択され、再増大したためと考えられます。

この様な細胞亜集団はどの様にして生じてくるのでしょうか。これには二つの考え方があります。すなわち、薬剤の存在によって腫瘍細胞が耐性を獲得する、とするものと、細胞集団内に一定の確率で耐性をもつ亜集団が存在し、薬剤によって選択される、とするものです。

前者では薬剤の非存在下では耐性は生じない、もしくは薬剤の存在が耐性を持つ亜集団の出現確率を上昇させると考えられますが、後者では耐性を持つ細胞亜集団の存在確率は薬剤の存在に依りません。GoldieとColdmanはマウス白血病細胞株の薬剤耐性の研究より、腫瘍細胞中の薬剤耐性亜集団の存在確率は細胞集団全体の大きさ、すなわち細胞総数に比例する事、個々の薬剤に対する耐性保有は各々独立した事象であることなどを提唱しました。

この考えは細菌の薬剤耐性獲得におけるLuriaとDelbruckの理論と共通するところがあります。すなわち、細胞の増殖とともに一定の確率で遺伝子に変異が生じる(またはepigeneticな変異が生じる)事で細胞集団内に薬剤耐性亜集団が生じ、これが薬剤使用による選択圧によって選択的に増大してくる、とするものです。ここで、各薬剤に対する耐性保有は各々独立した事象なので、複数の薬剤を併用することで全ての薬剤に耐性のある細胞の出現確率は大きく減少する事になります。これが多剤併用化学療法の根拠となりました。

しかしながら、薬剤への耐性が本当に各々独立した事象であるのか、薬剤耐性獲得が薬剤の存在に依らず一定の確率で起こるものなのかなどに関しては、殊に固形腫瘍でははっきりとはしておらず、Goldie & Coldman仮説をそのまま適用はできない事が明らかになってきました。この辺りのさらなる解説はNorton & Simonの仮説、及び薬剤の併用の項を参照下さい。